*注 このSSは『私の救世主さま』カバー裏のマンガを基にしたSSです。

  もうしわけありませんが、あらゆる覚悟をした人のみ読むことをお奨めします。







大きな汽笛と回る車輪

響き渡る音

目を閉じて、その音に身を任せて

意識の中で自分で首を振って否定する。

今、彼女が身を任せているのは、その音ではない。

隣にいて、彼女の肩を抱いている。

優しい微笑の似合う少年だった。







貴方が私にもたらすもの







「どうしたの?氷刃ひめ

少年―――その優しく、整った顔立ちからすると青年と言ってもいいかもしれない―――は彼女の名前を呼ぶ。

それで、彼女は気づく。

彼をいつの間にか見つめていたことに

「え…あ、なんでもない」

あわてて視線を外す。

一瞬の静寂

その後、氷刃の視線はチラリと真弥の方へと泳ぐ。

その視線に気がついて、少年は微笑む。

「……!!」

その微笑に、氷刃は頬を紅くして、再び視線を逸らそうとする。

そんな氷刃の肩に、彼の手が添えられて引き寄せられ、抱きしめられる。

「しっ、真弥!?」

氷刃は驚いたように彼―――真弥の名を呼ぶ。

「だめ、かな?」

だめじゃない。

驚いたけど、だめなわけがない。

だけど、素直にそんな言葉は出てこなくて

「どうして、そんなこと言うんだ?」

回りくどい、素直じゃない台詞しか氷刃からは出てこなかった。

真弥は、そんな彼女にただ柔らかく微笑んで

「僕が、そうしたかったから」

なんて、その微笑と同質の穏やかな声音で、淀みなくそう言った。

「しゃあしゃあと……」

少し怒ったような表情で、氷刃が唸る。

ただ、その顔は真っ赤に染まっていた。

「それと…君の不安を少しでも和らげてあげたいから……」

氷刃の身体が震えて、一瞬、表情が固まる。

二人は、今、行く場所もなくここにいて、どこかに行こうとしていた。

しかし、目的がないわけではなかった。

それは、一人の少女から逃げること

彼女の名は春儚

絶対的な力で、この世界の理を理不尽に覆し

世界を闇に包み、世界の頂点に君臨しながら、下々の者たちを護らず

同時に、気に入ったモノは縛り上げ、自由を奪い、そばにいること以外何も許さない

天上天下唯我独尊の独裁者である。

二人はそんな彼女の『お気に入り』だった。

統治もされず、春儚の意思一つで束縛も自由も決まるこの世界で

二人は最も『富』を与えられ、最も『束縛』される存在だった。

束縛される中、真弥は思った。

『自分を変えたい』と

彼女を知る前から、自分は弱かった。

強いものの影で、いつもおびえていた。







自分が嫌いだった。

いつも友達がうらやましかった。

だって僕はあまりにも最低なんだ。

でも、彼女に束縛される氷刃たちを見て

『自分を変えたい』そう思ったから―――。







彼の『心』は強くなった。

でも、それでも世界は闇に包まれた。

彼女の力は、あまりにも強大だった。

こんな理不尽が現実となるほどに

そんな時、彼は氷刃と話した。

豪奢な着物に身を包み

多くの人々とは違い、恵まれて見える彼女

しかし、彼女がいるその場所は牢屋で

その首には、彼女の立場を示すように、首輪がはめられていた。

氷刃は言った。

「かごの鳥はかごの外に世界があるなど知らぬ。一生はばたけぬまま…羽をもがれてくちゆくのみだ…」

真弥はそんな彼女に手を差し伸べた。

そして、言った。

『逃げよう』と

そんな彼を氷刃は拒絶する。

『つかまったらお前までどうなるか分からない』と

それでも、真弥は『笑って』言った。

「いいんだ、一緒に逃げよう。君は僕が守る…守りたいんだ」

そんな彼に氷刃は涙を零して頷いた。

久しく浮かべた覚えのない、とびっきりの笑顔と共に……。







そうして、二人は共にいる。

逃げるために、汽車に乗っている。

真弥は氷刃の肩を抱き、氷刃は真弥の肩に身を預ける。

先ほどまで、恥ずかしがっていたはずなのに

すぐに、彼の体温が心地よくなった。

我が事ながら、現金なものだと氷刃は思う。

でも、世界がこんなになってから…こんなに心地いいものは、味わった記憶がなかったから…こうなってしまっても仕方ないんじゃないかと

言い訳のように思って、彼を見た。

「―――!」

真弥は窓から、外を見ていた。

荒れ果てた、世界を見ていた。

その顔は、真剣で、どこかつらそうで

ふと、氷刃は自分の肩を見る。

そこには変わらず、温かく優しい彼の手

氷刃は思う。

『ああ、そうだ』と

分かっていなかったわけでは、思い至らなかったわけではない。

ただ、考えないようにしていたのだろう…卑怯なことに…

『私たちは今、逃げている』

この世界には、苦しんでいる人たちがいっぱいいるのに、逃げている。

それをこの人は、憂いて…自分を責めている…そう氷刃は感じた。

でも、こうも思うのだ。

人が聞いたら怒るだろう。

こんな言い方は、卑怯で汚い。

それは、分かっているけれど、そんなことは今、世界中の誰もが同じだと

誰もが逃げている。

誰もが諦めている。

だって、誰も春儚には敵わないから

それでも、この人はこんな顔をしている。

そして、思い知る。

自分の弱さと、この人の強さを

この人は、自分の弱さを分かっていながら、誰もが諦めているこの世界の中で

それでも、私を守ると言ったのだ。

そして、世界を救いたいと思っているのだ。

思うだけなど卑怯だと、誰かは言うかもしれない。

でも私は、彼は世界の誰よりも勇敢だと思うのだ。

「真弥……」

「あ…ごめん、ボーっとしちゃって……」

氷刃の声に、真弥は振り返る。

「抱きしめて、いいか……?」

「えっ!?」

憂いから、微笑みに変わっていた表情が今度は驚きになる。

「どうして?」

「私が、そうしたいからだ……」

顔を紅く染めて、懇願するように必至に、かすれる声で氷刃は言う。

「……いいよ」

そんな彼女の必至さに、微笑みと共に真弥はそう返した。

氷刃は、真弥の身体に両腕を回す。

横から身体に顔をうずめた。

「真弥…私は、温かいかな……」

普段なら恥ずかしくて表せない心が、自然に言葉となる。

「温かいよ…氷刃…」

「本当に……?」

それは、貴方の手の平のように温かいのかと、氷刃は問いかける。

「本当だよ」

その言葉に、氷刃は微笑む。

自分は幸福だと思った。

そして、この幸福を糧にしたいと思う。

貴方を守りたくて、たまらないほどに、糧にしたい。

世界を憂う、貴方を守りたい。

氷刃はチラリと外を見る。

幸福なのは、二人だけ

ならば、私たちは咎人なのだろうと、氷刃は思う。

しかし、今はこの幸福を感じて、この人のことを知りたい。

誰よりも、この人を守れるように『変わりたい』







氷刃は真弥を抱きしめたまま、顔を上げ、彼を見つめる。

真弥はそんな彼女にまた微笑む。

逃避行は続く。

罪深い時間は続く。

それでも、それが長いほどに、きっと強くなれる。

「真弥…離れないで…」

もっと、強くなりたいから

「離さないよ」

守ると誓ったから、守りたい人だから







二人の想いがどうあろうとも、だた汽車は走り、二人を逃がす。

氷刃にも、真弥にも、その果てに何があるのか分からない。

しかし、氷刃は真弥と同じように思う。

『変わりたい』

『強くなりたい』と

こんな苦しみにまみれた世界で、自分に手を差し伸べて

守ると言ってくれた人メシアを守れるように……。









あとがき


コミックス9巻のカバー裏マンガを見たことがきっかけで突発的にネタができた『私の救世主さま』SSです。

私自身も真弥x氷刃がこんなに好きだったとは、マンガを見て、その上でSSを書いて初めて気づきました。(ぉ

しかし、原作のカバー裏マンガはギャグなのに、SSはエセシリアス風味になってるんだろう……?

…視点がまとまってないところがあるのもどうかスルーで(ぉぉ


*『MixBox』の凰牙様が描いて下さったイメージ画を掲載しました。

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